最近、グレインフリーのペットフードが流行っており、当院の患者さんでもアレルギーに効くと聞いて使っている人をよく見かけるようになりました。
しかし、当院ではあまりお勧めしていません。
健康な動物が食べる分にはよい(害は無いというという意味で)と思いますが、健康面でのメリットは特にないというのが私の考えです。
もちろん、アレルギーをはじめとした食事療法を必要としている動物は獣医師の指導に従ってくださいね!
グレインフリーのペットフードが流行っている理由
身もふたもない話ですが、ヨーロッパやアメリカでグレインフリーが流行っているから、グレインフリーだと売れるからです。この話、実はグレインフリーのフードを作っているメーカーの人に聞きました。
元々は、グレイン(穀物)の中に含まれる「グルテン」に対して過剰な免疫反応が起こる「セリアック病」という病気が有名になり、グレインフリーが流行し、それがペットフードでも流行るようになったということらしいです。ちなみに、ヨーロッパやアメリカでは、150人に一人がセリアック病と言われていますが、日本人では2000人に一人、犬や猫はセリアック病になりません。
そこに、ヨーロッパやアメリカでは小麦アレルギーが非常に多いため「アレルギーに効く」という伝言ゲームのような情報が後付けされたものと思われます。
アレルギーに効くと聞いたけど
ROYAL CANINさんのHPにとてもよくまとめられていたので、そのまま引用させていただきました。
穀物が原因となる食物アレルギーは比較的少なく、穀物アレルギーではない犬と猫にとって穀物は、むしろ非常に優れた食材となります。
食物アレルギーとは、食物に含まれる主に「タンパク質」に対して体が異物と認識してしまうため起こる反応です。
つまり、タンパク質であればすべてが食物アレルギーの原因になる可能性があります。
診断の補助として血液検査が普及してきたため、食物アレルギーの疑いのある子は検査を受けたことがあるかもしれません。
検査項目としては、肉類、魚類、穀物、野菜、乳製品など様々な食品が挙げられています。
犬と猫の食物アレルギーに関して様々な論文を分析した結果、「牛肉や鶏肉などのアレルギーに比較して穀物によるものは少ない」ということが報告されています。
ROYAL CANINさんのHPは他の記事も非常に分かりやすく書いてあってオススメです。唯一、尿石予防のフードに関してだけはナトリウムが少し多めに入っていた方が良いというROYAL CANIN独自の考えを持っていて、そこだけは賛同できないのですがそれはまた別の機会に。
犬や猫は肉食だから炭水化物は良くない?
アメリカにはAAFCO(全米飼料検査官協会)という機関があり、総合栄養食に必要な栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル)の最小値と最大値を示しています。日本では、ペットフード公正取引協議会という組織が同じ役割を果たしていますが、AAFCOの基準をそのまま採用しています。それによれば、炭水化物の最小値は「0」であることに対し、タンパク質の最大値は「基準無し」となっています。
これを見れば、確かに低炭水化物、高タンパク質の食事が適していることは間違いありません。しかし、炭水化物を減らした分はタンパク質や脂質を増やすことになります。脂質を増やすと高カロリーになり、タンパク質を増やすと特に高齢の動物では肝臓や腎臓の負担になります。穀物はフードの嵩(かさ)を増やし満腹感を与えたり、内臓の負担を和らげながらカロリーを摂取するために重要な働きをしています。また、そもそもグレインフリーでもイモなどの炭水化物を使用している場合があります。
エビデンスはない
我々獣医師はよく、エビデンスという言葉を使います。エビデンスとは科学的根拠のことで、獣医学界では「権威のある科学雑誌に論文が掲載され、広く同意が得られている」ということを「エビデンスがある」としています。この点において、グレインフリーのフードが健康面に与えるメリットについて、エビデンスはありません。
デメリットもあるかも?
グレインフリーのフードが原因と考えられる犬の拡張型心筋症が複数報告されています。また、ラブラドールレトリバーではグレインフリーのフードを給与することで血中タウリン濃度が有意に低下し拡張型心筋症のリスクが上がるようです。少なくとも、レトリバー犬種では避けた方が良いと思います。
リーキーガット症候群について
人で、グルテンなどが腸管粘膜を透過して健康影響を及ぼすという説(リーキーガット症候群)があります。私が調べた限り動物のリーキーガット症候群に関して指摘しているものは無いように思います。これについては、人でもまだ確かなことは言えない状況ではあるようですが、食品安全委員会が英国国民保健サービスの報告を引用し、
概して、食事から何らかの食品を排除することは、栄養失調につながりかねないことから、(セリアック病患者など)厳密な必要性があり、かつ医師の助言の下で行われる場合を除いては良い考えではない
とまとめています。
また、食品安全委員会は
グルテンによる健康影響について、セリアック病以外に懸念を示唆するに十分な資料がなく、医師の指導による場合などを除き、特定の成分を極端に排除したり、また逆に極端に摂取量を増やしたりするのではなく、規則正しくバランスのとれた食事に努めていただくことが健康のために重要であると考えています
とまとめています。これは人についての話ですが、動物にも当てはまることだと感じています。規則正しく適切な量を与えること、オヤツや人の食べ物、肉や野菜を与え過ぎないようにすること。これが一番重要ですよね。